つい先日、あるご信者さんの年忌法要のご奉公をさせていただきました。そのご供養のお席として、大変趣のある古風な割烹料理店をご用意していただいたのですが、非常に身に余るお料理の数々を頂戴し、却って申し訳なく終始恐縮をしておりました。
そのお店は明治17年創業で店構えや内装、その他お皿やお箸など小物に至るまで大変なこだわりと雰囲気を漂わせ、料理の味もさることながら、女将(4代目)と若女将(5代目)の接客や受け答えの如才なさに一同で感心し私自身も多くのことを学ばせていただきました。
特に、私と同世代であろう若女将さんの接客は見事の一言に尽きるものでした。その背景には、日頃の弛まない修練があることは間違いないでしょうが、努力を感じさせない自然な身のこなしや含蓄のある品格には、どこか彼女自身の力だけではない「何か」を感じさせました。
その若女将さんが仰っていた「ご先祖様のお蔭で」、「多くの方のお力添えを頂いて」という言葉を耳にして「ハッ!」といたしました。彼女からにじみ出ている風格や態度は、まさにご先祖から受け継く「徳」を背負っている、商売人としての「徳」が備わっているに違いないと素人ながらに感銘を受けました。
では、この「徳」とはなんぞや!ということになります。運気や才能とも違いますし、いざ考えると何となくは分かるような、でも実際は分からないようなという掴み所のないモノですが、確かにその人の身を飾り備わっているモノであろうかと思います。
辞書で調べてみますと①「生まれつき備わった能力や資質」②「精神の修養によってその身に得たすぐれた品格」などの意味があります。
このことから「徳」とは、生まれもった資質だけではなく、私たちが生活をする日常の中でも身に付け、高めることが出来る性質があると言えます。
松下電器創業者の松下幸之助氏は85歳の時、松下政経塾の塾生との対談で「徳について」次のように仰せです。
「徳を高めることは、私にとって今一番必要なことである。私が望むものは、技術でもなければ商売の手法でもなく徳の高い人間になることである。徳というものは漠然としているけれど、人間にとってこれが何よりも一番の宝である。技術も大事であるし、学問も大事であるが、徳を持たずしては学問も技術も成り立たない。徳は人間にとって一番に尊いものであるが、徳は自分で教えることも人から習うことも出来ないものである。」
何やら雲を掴むような話ですが、松下幸之助氏ご自身の様々なご経験から「徳の尊さ・重要性」を説かれている反面、自力で「徳」を身に付けることの難しさを述べておられます。
確かにどれほど技術や経済力、知力や体力が優れていたとしても、それが仕事の成功に直結するとは言えないのが現実です。即ち、この「徳」がなければ、何事に於いても成功を収めることは出来ないとも言い換えることができるのです。
生まれながら素晴らしい才能に恵まれていることは確かに大変結構なことですが、素晴らしい人とのご縁に恵まれること、人から頼られ重宝されること、自然と人が集まってくること、これらはその人の身に備わった「徳」の為せる業であります。
この「徳」は、日常生活の鍛錬や心掛けなどによって磨き高めることも出来るのでしょうが、松下幸之助氏が言うように、では「どうすれば正しく道を誤らずに「徳」を身に付けていけるのか」を端的に説明出来ない性質があります。
だからこそ、私たちは佛様がお残し下さった「徳」を積む為の直道、日々の佛道修行を徒疎かにしては勿体無いことであると言えるのではないでしょうか。
当然ながら、一朝一夕で身に付くような類いのモノではありません。佛様のみ教えに従って一日一日の佛道修行を謙虚に積み重ね、それこそ長い年月を掛けて自然と身に添っていくモノであろうかと思います。
まだまだ我が強く未熟な私ですが、僅かばかりでも他人様のお役に立てさせていただけるような僧侶としての「徳」が頂戴できますように、身体や時間を惜しまず正直に日々の信行を励ませていただきたいと願っております。
そんな「徳」についてのお話です。
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